拡大が期待されるシニア向けeスポーツ市場 新規参入時に参考にしたい基本情報や事例

サービス提供:日本情報マート

米国や中国、韓国などで盛んな「eスポーツ」は、日本でも広がりを見せています。後述しますが、日本のeスポーツ市場は2025年まで右肩上がりとの予測で、これからまだまだ発展していきそうです。

今、日本のeスポーツで注目のキーワードは「シニア向け」です。シニア向けeスポーツ施設や、シニアだけのメンバーでプロ選手を目指すeスポーツチームが登場し、メディアに広く取り上げられています。2023年には、シニアeスポーツ協会が発足しました。同協会では、シニア向けのeスポーツイベント・大会の開催をはじめ、コミュニティー支援、eスポーツプログラムの提供などを手掛けています。

この記事では、シニア向けeスポーツ市場について、参入する際に考えられる競争環境や事例などをまとめています。新しいビジネスを検討している方のご参考になれば幸いです。

1 日本のeスポーツ市場規模~2025年には217億8100万円との予測

日本eスポーツ連合によると、日本のeスポーツの市場規模は2025年には217億8100万円に達すると予測されています。シニア向けに限りませんが、eスポーツ市場は全体的に拡大していくものとみられています。

日本のeスポーツの市場規模

2 可能性の塊! シニア向けeスポーツ

大会を中心にeスポーツ市場がにぎわっているのは事実ですが、競技性だけではなく、娯楽性を重視した自分のペースで楽しむeスポーツもあります。シニア向けeスポーツはまさにこうした一例で、「楽しい」に加えてストレス軽減や記憶力向上、認知症予防にもつながることが期待されています。

例えば、シニア向けeスポーツ施設では、スタッフが初心者にゲーム機の操作方法などを指導しながら、ゲームを楽しんでもらう事業を行っているところもあります。シニア層が同じ施設に通う仲間同士で交流したり、自分の孫や会社の若手社員と一緒にオンラインゲームで遊んだりすることで、刺激を受けられるという面もあるでしょう。

一方、「本気でプロの選手を目指す」シニアだけのeスポーツチームもあります。競技性・娯楽性の両面で、シニア向けはまだまだ可能性がありそうです。

3 シニア向けeスポーツ事業参入の分析

ここでは、シニア向けeスポーツ施設を開業する、もしくは関連のサービスを行うと仮定して、シニア向けeスポーツ事業の競争環境を、ビジネスフレームワークの「ファイブフォース分析」で考えてみます。

ファイブフォース分析

自治体が企業や福祉施設と提携してシニア層に対してeスポーツの体験会を行うなど、シニア向けeスポーツを普及させる様々な取り組みが進んでいます。

シニア層の中には、デジタルのゲームはとっつきにくい、ゲームは体に良くないといったマイナスイメージを抱えている方もいるかもしれません。一方で、そうしたシニア層に対して、「認知症の予防に効果がある」「シニア層同士、あるいは世代を超えた新たな出会いやコミュニケーションの場ができる」、そして、「これから仲間と本気でプロ選手を目指すワクワク&充実感を、改めて感じてみませんか」などのアピールをしていくことが、eスポーツを普及させる鍵になりそうです。

4 シニア向けeスポーツの事例

1)シニア向けeスポーツ施設:ISR e-Sports(兵庫県神戸市)

日本初の60歳以上限定のeスポーツ施設です。この施設ではeスポーツを通じて、同じ場所で同じ時間を共有し、シニア世代にとっての生きる目的づくりや孤立防止に役立て、新しいコミュニケーションが生まれることを大切にしています。

プレー前に準備体操を取り入れたり、プレー後は、コーヒーを飲みながらオフラインで談笑をしたりすることで、体を休めるクールダウンタイムを設けるなど、体に負担がかからないようにeスポーツを楽しめる施設となっています。

■ISR e-Sports■
https://isr-group.co.jp/isr-parsonel/e-sports/

2)シニア向けeスポーツ関連サービス:ハッピーブレイン(熊本県合志市)

自治体や高齢者施設、重度障がい者向けにeスポーツの導入サービスを提供しています。ボタンスイッチのみで楽しめる「UDe-スポーツ(ユーディイースポーツ)」を取り入れており、施設内でのオフライン対戦だけでなく、Zoomで同社のサービスを導入している他の施設とつながり、オンラインで交流を図りながら対戦することもできます。

■ハッピーブレイン■
https://hb-e-sports.com/

3)リハビリ施設でのeスポーツ活用:友愛会(宮崎県小林市)

運営している通所リハビリテーション施設のデイケアさとやま(静岡県沼津市)において、リハビリサービスの一環としてeスポーツを活用しています。この施設では、eスポーツが、利用者の注意・遂行機能の向上や、ワーキングメモリー・情報処理能力の改善などを楽しく実現できる「脳トレ」になると考えて、eスポーツの活用を決めたといいます。

1年間の構想期間のうちに、地域イベントで利用者にeスポーツ体験をしてもらったり、職員が日本アクティビティ協会の「健康ゲーム指導士養成講座」を受講したりするなど、万全の状態でサービス提供できるよう準備を進めたそうです。

■デイケアさとやま■
https://www.satoyama2.jp/daycare/index.html

4)シニア専門のeスポーツチーム運営:エスツー(秋田県秋田市)

プロ選手を目指す平均年齢65歳以上のeスポーツチーム、「マタギスナイパーズ」を運営しています。「孫にも一目置かれる存在」をスローガンに打ち出しているのが印象的です。

eスポーツの導入を加齢や病気の予防だけにとどめずに、プロ選手・プロゲーマーを目指すために若手の専属コーチを付け、仲間と切磋琢磨(せっさたくま)する姿は、「かっこいい」「燃える」がキーワードの、シニア向けeスポーツの新しい在り方かもしれません。

■マタギスナイパーズ■
https://matagi-snps.com/
■エスツー■
https://www.esu2.co.jp/

この他、全国の自治体でも、シニア向けeスポーツ(シニアeスポーツ・高齢者eスポーツ・シルバーeスポーツなど名称は自治体ごとに異なります)の講座や体験会、交流会を実施しています。

なぜ自治体も注目しているのかというと、シニア層のニーズが変化してきているからです。シニア層の中には「自分を高齢者と思わない」人がいたり、仕事などでパソコンやスマートフォンといった電子機器に使い慣れていたりする人も増えています。そのため、シニア向けの趣味とされていたゲートボールや囲碁・将棋への関心が薄くなり、タブレット講座やSNS講座などのデジタル分野へのニーズが高まっているといいます。さらに、eスポーツは、認知症予防の効果が期待できること、足腰が悪くてもプレーできること、孫や地域の若者との交流を生み出せる可能性などから関心が高まっているのです。

これらの体験会や交流会を通じて、「ゲームは良くないもの」というマイナスイメージも払拭されつつあります。こうした意識の変化は、シニア向けeスポーツ施設の開業において有利に働いてくれるでしょう。

また、教室事業などについては、業務の委託先を募集していることもあります。eスポーツ事業に興味のある方は、各自治体のウェブサイトを確認しておくとよいでしょう。

■群馬県太田市役所「シニアeスポーツ、始めました!」■
https://www.city.ota.gunma.jp/page/1023988.html

5 シニア向けeスポーツ施設を開業する際の法的留意点

最後に、シニア向けeスポーツ施設を開業する際の法的留意点を紹介します。

シニア向けeスポーツ施設にゲーム機を設置して開業する場合、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)の適用を受けることがあります。風営法の適用を受ける場合、学校の近くには開業できなかったり、都道府県の公安委員会への営業許可申請が必要になったりします。

インターネットカフェなどが、パソコンのように汎用性のある機器を用いてeスポーツを楽しめる環境を提供する場合、その機器はゲーム以外の機能が現実に利用可能な状態である限り、「ゲーム機」には当たらない(風営法の適用を受けない)とされていますが、この辺りは専門家に確認するなどして慎重に判断する必要があります。

また、シニア向けeスポーツ施設を経営していて、ゲームの大会を開催したい場合、告知や大会での競技の様子をインターネット配信する際に著作権法違反に該当しないか、賞金を用意したい場合、刑法上の賭博罪に当たらないかなどに留意する必要があります。

日本eスポーツ連合では、eスポーツにまつわる法律上の課題や、大会を開く際の留意点などをまとめた「かんたんeスポーツマニュアル」を公開しているので、参考にするとよいでしょう。

■日本eスポーツ連合「規約・マニュアル」■
https://jesu.or.jp/contents/terms/

以上(2024年5月更新)

画像:Viacheslav Yakobchuk-Adobe Stock

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