契約書のチェック! 基本構成から解除条項や損害賠償条項まで/弁護士が教える契約・契約書の基礎知識(4)

1 契約トラブルの回避は締結前のチェックが重要!

しゃくし定規に言えば、一度締結した契約は、不本意なものでも守らなければいけません。もちろん、相手と協議して変更を求めることはできますが、時間や手間がかかります。それに、こちらが変更しようとしている内容が、相手にとっては不利なものの場合、なかなか変更に応じてもらえないかもしれません。

ですから、契約書の内容は締結前に慎重に検討することがとても大事です。

特に契約実務に慣れていない人は、「相手方の契約実務に詳しい人が作成したのだから、間違いはないだろう」「ひな型にあるのだから、必要な条項なのだろう」などと思い、確認を怠ることがあります。

しかし、分からない点を、分からないままにして契約書を交わすと、後々、大きなトラブルになることもあります。そのため、契約書は、次のような視点からチェックする必要があります。

  • 交渉で決めたことが正しく、かつ過不足なく盛り込まれているか
  • トラブル防止などに必要となる条項が適切に盛り込まれているか
  • 法的に認められない条項や条項間の矛盾はないか

2 契約書の構成に沿った基本的なチェックポイント

一般的な契約書の構成に沿って、チェックポイントを紹介していきます。なお、契約書を読む際に紛らわしい用語などは、次の記事で紹介しているので参考にしてください。

1)タイトル

タイトルは、契約書を読む人が勘違いしないように、内容がおおよそイメージできるものになっているかをチェックします。とはいえ、タイトルによって契約の法的効力が変わることはありません。

2)前文

前文には、契約当事者や契約の目的などが定められています。これだけで契約当事者などが確定するわけではありませんが、正しく定められているかをチェックします。なお、民法が改正され、契約不適合責任や債務不履行責任を考えるに当たって、これまで以上に当事者の意思が重視されるようになってきているため、前文で契約の目的を詳細に定めている場合、その前文が当事者の意思を解釈する際に、重要な意味を持つことになるでしょう。

3)主要条項

ここからが重要ですが、一般的な契約書は、

「契約自由の原則」は、具体的に次の4つの自由から成り立っています。

  • 主要条項(契約当事者の権利義務)
  • トラブルの際の条項(解除条項や損害賠償条項)
  • 一般条項(合意管轄、準拠法など)

といった並びになっています。

1.主要条項(契約当事者の権利義務)

最も大事なのが主要条項です。その内容は契約ごとに異なりますが、権利・義務の内容が適切かをチェックするのが基本です。読み方としては、

自社は何をしなければならないのか、あるいは相手方に何を求めているのか?

という根本を明確にすることです。複雑な条文は理解しにくいですが、そのような場合は、

「誰が」「誰に」「何を」「いつ」「どこで」「何の目的で」「どのように」「いくらで」

といった要素に分解してみましょう。これらの要素で不明な点は相手に確認しますし、逆にこれらの要素が抜けている場合は、必要に応じて付け加えます。

また、契約書の前半では用語の定義がされていることが多いですが、この定義が曖昧だと契約当事者間で解釈に違いが生じてトラブルになることがあります。さらに、裁判になったときは、用語の解釈が争点とされることもあるので慎重にチェックします。

2.トラブルの際の条項(解除条項や損害賠償条項)

何らかのトラブルがあった場合に対応するための条項です。この記事では、特にご質問を受けることが多い条項として、「解除条項」「損害賠償条項」に注目し、個別に解説しています。

4)一般条項

一般条項とは、契約内容にかかわらず、共通して定められることの多い条項で、合意管轄や準拠法などが該当します。一般条項のチェックについては、次の記事で紹介しています。

5)後文

後文では、「上記合意成立の証しとして、本契約書2通を作成し、甲乙各々署名捺印の上、甲乙各1通を保有する」というように、作成通数、署名押印を要する旨などが定められます。

なお、電子契約の場合、厳密には「甲乙が電子署名をした電子データを保管し〜」などと記載すべきですが、紙の契約書と同様の文言を使っているケースもよく見かけます。

6)契約書作成日

意外と軽視されがちですが、契約書作成日はとても大切です。契約書に特別の定めがある場合以外は、原則として契約書作成日が契約成立日(締結日)と推定され、契約の効力が発生する日となります。また、契約書作成日はトラブルが生じたときに、いつの時点の合意内容であるかを示す重要な証拠となるので、誤りがないかをチェックします。

3 解除条項を定める際のポイント

1)法定解除と約定解除

解除とは、一方の契約当事者の意思表示によって、契約を遡及的に解消することをいいます。契約書に解除条項がなくても、民法上、一方の契約当事者に債務不履行があった場合、契約を解除できることが定められています。これを「法定解除」と呼びます。

ただし、実務上は、この他にも契約を解除しなければならない事由が想定されるため、その旨を契約書に定めておく必要があります。これを「約定解除」と呼びます。

2)約定解除の事由

法定解除に該当せず、約定解除の事由として定めていないことは、一方的に解除できません。そのため、約定解除として必要な事由を漏れなく、契約書に盛り込むことが大切です。

一般的な解除事由には、契約違反、差押え・仮処分・強制執行、破産・民事再生・会社更生の各手続きの開始申し立て、支払停止、営業停止処分、事業譲渡、合併、解散などがあります。その他としては、例えば、業務委託契約では、

相手方の責により、委託業務が期日までに履行される見込みがないとき

などがあります。

3)無催告解除

通常、解除事由が発生した場合、相手方に催告をして契約に従って対応してもらうように促します。それでも対応してもらえないときに契約を解除します。

無催告解除とは、こうしたプロセスを経ないで、解除事由が発生したら、相手方に解除の意思表示をした上で、すぐに契約を解除できるようにする条項です。こちらが該当する場合、相手からすぐに契約を解除されてしまうということでもあるので、契約書の内容は慎重に検討しましょう。

4)解除後の措置

契約を解除するときは「けんか別れ」のようになっていて、とても話し合いができる状態ではないこともあります。そのため、解除後の措置は「協議して決める」というような話し合いを前提とせず、できる限り手続きなどを具体的に定めておきましょう。

契約解除の流れとトラブル時の対応などについては、次の記事でまとめているので参考にしてください。

4 「損害賠償条項」のチェックポイント

1)損害賠償条項の意義

民法上、契約書に損害賠償条項がなくても、債務不履行によって損害を受けたときは、損害を受けた契約当事者に損害賠償請求権が発生します。とはいえ、損害発生時の話し合いをスムーズに進めるためには、損害賠償条項を契約書に定めるのが一般的です。

この際、妥当な損害賠償の範囲と損害賠償額を定めることが大切です。損害賠償は契約当事者間のパワーバランスが表れやすい分野ですので、優位な立場にあるほうは相手方に配慮し、劣位な立場にあるほうは自社が許容できる内容にすることが大切です。

2)損害賠償の範囲

損害賠償の範囲は、損害額に影響する非常に重要なポイントです。例えば、契約当事者が受けた直接的な損害のみとするのか、あるいはそれに関連して第三者が受けた間接的・付随的な損害も含むのかによって、損害額は大きく違ってきます。

このあたりは、実際に損害が発生したときに、契約当事者間で争いになりやすいところなので、明確にしておきましょう。契約当事者間で合意できるのであれば、「直接的な損害のみとする」といったように、契約書で損害賠償の範囲を決めておくとよいでしょう。

3)損害賠償額の予定

損害賠償額が、会社が負担できないほど高額になるリスクを避けるためには、「損害賠償の額は、第○条に定める年間業務委託料の○倍を上限とする」といったように、あらかじめ損害賠償額の上限を定めるのも一案です。

4)損害賠償額の上限

損害賠償額が、会社が負担できないほど高額になるリスクを避けるためには、「損害賠償の額は、第○条に定める年間業務委託料の○倍を上限とする」といったように、あらかじめ損害賠償額の上限を定めるのも一案です。

5)残存条項との整合性

契約書の中には、「本契約の義務は、本契約終了後も○年間は引き続き効力を有する」といったように、契約終了後も効力が存続する条項が定められていることがあります。これを「残存条項」と呼びます。

例えば、契約終了後であっても秘密情報の漏洩は経営に大きな影響があるため、秘密保持義務に関する条項は残存条項とすることが多いのですが、残存条項に反したときにも損害賠償を請求できるように、損害賠償条項も併せて残存条項の扱いにしておく必要があります。

いかがだったでしょうか? 契約書をチェックする際の基本的な視点と、解除条項と損害賠償条項について詳しく紹介しました。

この「弁護士が教える契約・契約書の基礎知識」シリーズでは、以下のコンテンツを取りそろえていますので、併せてご確認ください。

以上(2024年4月更新)

(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

画像:mayucolor-Adobe Stock

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