年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、株式会社ドットライフの代表取締役である新條隼人さんです。
私の愛読誌である『Wedge』。その2019年8月号には、いつも気付きを与えてくださる一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生が、【「三つの過剰に」に陥った平成の日本企業 今こそ共感や直観による経営を取り戻せ】の文章を寄稿されていて、私自身感銘を受け、まさに【共感】させていただきました。その共感の深さを追求し、時間軸を超えていくブランディングを提供しているのが今回の新條さんです。中小企業における【共感ブランディング】について掘り下げ、事業承継にも有益なお話と捉えて今回はお伝えできればと思います。
1 新條さんの事業の一つanother life.について
1)私のこともすてきな記事にしてくださいました
上記は私の2年前の記事。53歳のときに今回の新條さんが運営されているサービス【another life.】にて記事にしてくださいました。記事掲載サイトはこちらです。
新條さんとは2年ほどのお付き合いで、スタートアップの世界では投資家であり、事業開発のお兄さん的存在の山口豪志さんのご紹介で知り合いました。そこからすぐにもう一度お会いしたいと思い、アポイントを入れさせていただいたことが鮮明です。
その理由は、収益性が見えない事業をよくここまでやりきっている、それでいて自信にあふれ、これからの世の中で大切な無名の個人の人生ストーリーにフォーカスし共感を生み出していることに、私自身も気付かせてもらったこと。2度目にお会いした際に私のプロフィールをお伝えしたところ、その場で『杉浦さんのインタビューがしたい』と仰ってくださいました。すぐにインタビューを表参道のカフェで実現し、この記事につながりました。インタビューのときに感じたこと、それは私の人生を丁寧に何度も掘り返してもらっている感覚、新條さんの優しいトーン、言葉遣いでありながら、私の人生ストーリーで記憶のかなたに忘れ去っていたことまで力強く呼び戻してくださったと感謝しています。深掘り感、その感性の深さに驚くばかりでした。
程なくして、私の記事が公開、その途端、大反響となりました。最近会っていなかった方々からは久しぶりに会いたいとか、全く会ったこともない方からは感動しましたという感想を寄せてもらったことから、私自身が感動したことも。
実際に、このanother life.の特徴は、読了率が圧倒的に高いこと、しかも5000文字を超える記事も多数ありながら、記事全文を読了する人が70%を超えていること。不特定多数の大量の人々に訴求するマスメディアの発信とは全く異なるものであり、点と点である人と人、個人と個人を深い共感で結びつけていく、そんな特徴があります。しかもその共感が時間軸をはるかに超えていき、テレビの世界で見られるその場の【瞬間風速】【はやり、すたり】にやきもきする視聴率競争とは遠い世界のWebメディアという位置づけで、実際私の記事リリースから2年近く経過した今年の春ごろに、記事への感想を寄せていただきました。それがこちらです。
『こちらのanother life.を読ませていただきました。人と人をつなぐことの価値を感じるひとりとして、共鳴の想いで鳴く如くメッセージを差し上げました。まことにありがとうございました。私もこれからも人と人のつながりを大切にします。信頼する気持ちや安心感、挑戦する想いを持ち歩みます。あらためてこころさせていただく記事でした。敬意と感謝をこめて』
まさに点と点がつながったことを感謝し、確信するコメントをいただきました。
2)日本の国境問題、その意識することの大切さもストーリーから
このanother life.を内閣府総合海洋政策推進事務局も注目をし、記事の作成をした経緯があります。ほとんどの日本人が意識から遠い、国境の問題。離島での人口減少問題。そこに住む人々の人生ストーリーを共有することからの共感、今まで意識することのなかった離島での生活や人生ストーリーから、日本の現実に意識を向けることにもつながっています。
東京都の青ヶ島ってどこ? と思いながらも、すてきな人生ストーリーにホロッとするような、勝手に空想の世界で映像が動き出すようなお話の数々。2年前に公開となった、山田アリサさんの記事。山田さんのストーリーはこちらです。人口165人、面積5.98平方キロメートル、東京から358キロメートルの絶海の孤島で育った山田さん、大っ嫌いだった地元で見つけた自分の居場所に共感しました。
そこから2年後にフジテレビの番組セブンルールに、この山田さんがご登場されました。
山田さんのすてきな人生経験がシェアリングされたという証しに感じますね。
内閣府総合海洋政策推進事務局のサイトはこちらです。この離島に住むみなさんへのインタビュープロジェクトを3カ月かけて取り組んだそうです。すごい経験になりますね。
また、このプロジェクトから生まれたお話には、
3)境遇への共感 点と点が結びついていく
私からは、私以上にすてきな人生を歩んでいらっしゃる方々を、新條さんにご紹介させていただいたりもしています。代表的な3名の方を挙げますと、転職エージェントとしてNHKのプロフェッショナルにも出演された森本千香子さん(森本さんの記事はこちら)、国内初のSDGsアワード2017大賞に輝いた阪口竜也さん(阪口さんの記事はこちら)、ベンチャーキャピタリストからキャリアコンサルタントやラジオのパーソナリティーで活躍の森清華さん(森さんの記事はこちら)がいらっしゃいます。ご縁の広がりが、このanother life.から見ず知らずの方々につながっていくことを体感した次第です(この記事をご覧になった方々から、採用への応募とか、またご縁が広がっているそうです)。
他人の人生を【ジブンゴト】となっていくことで深い共感性、高い価値観を生んでいく、マスメディアから遠い人々にリーチできていることがanother life.の価値と感じます。
最近では、マスメディア側から、このanother life.への歩み寄りも見られるようになり、テレビ局とのタイアップ、新聞とのタイアップの実績もでき始め、メディア×メディアの掛け算となり、クロスメディアの打ち出しにもつながってきました。
2 起業のキッカケについて
新條さんの会社のミッションと、起業へのキッカケは密接に関係しているように思います。
『やりたいことをやる人生を、あたりまえに』
私たちは、誰もが「自分にとって幸せな人生」を歩むことができるような社会、世界を目指しています。「やりたいことが見つからない」「やりたいことを諦めた」。そんな悩みやモヤモヤを感じている人が、人生経験のシェアリングを通じて、新しい人生を一歩踏み出すキッカケを提供したいと考えています。
このミッションそのものが新條さんがモヤモヤを解き放ち、自身のやりたいことに突き進んだ結果の起業ということになります。
ご実家が和裁やちょうちんを作る【稼業】を営む中で、継ぐな、自分でやりたいことを考えてやりなさいと小さい頃から言われて育った新條さん、0(ゼロ)から価値を何か提供したいと思いつつ、自信や覚悟がなかったそうです。
転機は、大学生のときに母校の高校に講師として2年生と対話の機会があった際、講師である新條さんに救われたという感想が寄せられたそうです。新條さん自身がこの講師体験で得たものは、人がどう生きるかの根幹に価値を提供できたことに対して、やりがいを感じ、また起業という特定の選択肢に縛られることもなく、その都度、目の前にある選択肢を自分で決めて飛び込んでみる。そしていきなり起業でなく、一旦、就職を選択することに。
起業目的で就職した新條さん、1年目でいきなりリーダー格に。しかし、そのまま会社員をやる選択はなく、2年間の会社員時代はとにかく起業資金を作る期間に充てたそうです(ご本人いわく、起業資金目的の就職ではなく、その会社の【人】ベースで選択、まさにやりがい目的でその会社を選択したそうです)。そこで200万円の【資本金】を蓄え、前述のミッションを実現するための【人軸】のストーリーを表現すること、見知らぬ誰かにとってキラッと光る部分にフォーカスを当て、【事例】をキチンと出していくこと、多数の人生経験をシェアリングすることを打ち出していきました。しかも事業、企業活動として成立していくことにコミットしながら。
3 中小企業に共感ブランディングの時代、事業承継にも有効なワケ
1)中小企業での共感ブランディング
採用ブランディングの企業の方ともお会いする機会が多いのですが、見せかけだけを良くする、脚色して打ち出す、さもきらびやかな人生が待っているかのような。現実はかけ離れて、ニセブランドにだまされたと思っても気付くのは入社後、不幸の連鎖を生んでいること、見かけます。このようなブランディング企業に多額の費用を支払い、結果せっかく入社した社員が辞めていくのも事実。なんのために、誰のために会社経営をしているのか? 本当に分からなくなってしまっている経営者もいらっしゃいます。
another life.で共感を呼ぶ人生経験のシェアリングを、中小企業向けブランディングでも活用が進んでいます。嘘のないストーリーを主軸としたマーケティングで、人事、採用、広報へ展開し、企業の組織力強化を底上げするお手伝いをしています。このあたりのことはセミナーでお話をされる場面もあるそうです。
具体的な採用事例も。
コーヒー専門店に就職 独立 そしてまた人が来る
another life.の記事を見た沖縄で働いていた和田さんが、コーヒー専門店のお話、記事の中に出てくる「人のために生きるのが自分にとっての幸せ」という考え方に衝撃を受け、自分が満足していないと他人を満足させられるわけないよなという気付きを得て、手紙を書き、そこから会う、そこからそこで2年間ストーリーの主と一緒に働き、今般独立へ。茨城県で【ただいまコーヒー】を開店したそうです。人生のシェアリングがリアルに一緒に働く共感を呼び、そこから独立につながる。なんてすてきなことか。さらにその和田さんのストーリーを知った方が、その和田さんのお店で働くという共感の連鎖。就職、就社というような今までの【働く】概念を超えた、嘘偽りのない人生を共に歩みたいと思うからこその、自分で決めた【居場所】となっていると感じます。
この和田さんの記事はこちらです。
和田さんに共感して居場所を決めた神定さんの記事はこちらです。
2)事業承継も共感の時代へ
三重県の町工場に決まっていた内定を蹴って、自身の父が経営する会社に入社することを決めた野見山さん。入社以来退職者は1名も出していないそうです。この野見山さんが活用したのが、another life.とマスメディアです。
野見山さんのanother life.の記事はこちらです。
野見山さんのテレビ動画はこちらです。
Q.マスメディアタイアップ実施後、自社内、社外に変化はありましたか? もしあったならどんな変化、効果があったか教えてください。また、ドットライフ社への期待、上記以外に感じたこと等々教えてください。
A.社外的には、等身大のストーリーを語ったことにより親近感が湧いた等と言われました。
今後の期待としては、今まで世の中で認知されていないけれども、必死に働いている方にスポットを当ててくれると思います。
4 今後について
another life.や会社が、ニュース配信をしている共同通信社のような存在、しかも【人軸】とした配信を行う事業で、いろんなメディアや企業で活用される事業体を目指したい、前述の国境の島のストーリーのような地方活性化の文脈でも取り組んでいきたい、人生ストーリーを発信していく中で、シンデレラを輩出するようなこと、シンデレラストーリー自体を自分たちで巻き起こすことにもチャレンジしたい、と幅広くお考えです。
新しいことへのチャレンジ、答えのない世界に喜んで飛び込んでいくそのお手伝い、個人が主体の誰かの価値をみんなの価値に変えていく、そこに自分たちの居場所を見いだしていきたいと新條さんは語ります。
私もこの価値観への共感がますます大切な時代に入っていくと感じます。なにかしら新條さんたちとご一緒できるように、私も人軸を大切にしたいと思います。
最後に新條さんから一言、想いを。
新規顧客の開拓や採用向けの広報など、中小企業が事業を成長させていくために、PR・ブランディングが大きな力を発揮するシーンは多々あります。一方で、SNS発信をしても反響がない、自社サイトで記事を更新しているが工数的に継続できない、何を発信すればいいか分からないなど、効果を得られぬまま頓挫してしまうことも。another life.では、人軸のストーリー配信と、テレビ・新聞・Webでのメディア配信を通じて、これまでメディアに縁遠かったような中小企業の方々の発信をお手伝いしていきたいと考えています。
以上(2019年8月作成)