家事代行の枠を超えた「おせっかい」で「ほっこり」な【東京かあさん】。だから「家事代行」は、社内ではNGワード。“人が何歳になっても活躍できる場をつくりたい”おばあちゃん子の思いが、新しい文化を生む!/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、小日向えりさん(株式会社ぴんぴんころりの代表取締役)です。

小日向(こひなた)さんが語ってくださったのは「第2のおかあさんを持つ」という、一般的な家事代行の先を行く新しい文化。人と人とが出会い、ちょっとした「おせっかい」が「ほっこり」した気持ちを育む……。今だからこそ、こうした人のつながりがますます大事になっていると感じます。小日向さんがやっておられる【東京かあさん】は、利用者にだけやさしいのではありません。もともとは、「高齢になっても、人が働き活躍できる場をつくりたい」という思いから始めているものです。働き手と利用者の両方を「ほっこり」させる小日向さんのサービスと思いをご紹介します。

1 「小日向さん」と「東京かあさん」と「スタバ理論(仮)」

1)小日向さんの実現したい社会、そして小日向さんはどのような方か?

「株式会社ぴんぴんころり」。2017年7月創業のこの会社名にも、小日向さんの思いがたくさん込められています。「高齢者が寝たきりや病気にならず、人生の幕引き直前までぴんぴん元気でいること」、つまり、一人でも多くの人が生涯現役でいる社会をつくる。これが小日向さんの掲げるビジョンです。

株式会社ぴんぴんころりのビジョンの画像です

(出所:小日向さんからいただいた資料より抜粋)

2020年から、この株式会社ぴんぴんころりの経営一本に絞っている小日向さん、奈良県のご出身で横浜国立大学卒。以前は歴史アイドルでした(2022年現在は、すでに引退されています)。15歳のころから芸能活動をされていて、歴史好きが高じて「歴史アイドル・歴ドル」として書籍を発表したり、テレビやラジオなどでご活躍されていました。

一方で、インターネット大好き、かつご親族に有名な起業家さんやご自身の起業家精神も以前からかなりお持ちだった小日向さん。2012年には一社目の会社を立ち上げ、歴ドルと起業家を両立。行動力があり、地道に努力される頑張り屋さんな面もある、そしてとても素直で「世の中を良くしたい」という純粋な心持ち。加えて大のおばあちゃん子!(これが「ぴんぴんころり」の創業につながっています。詳細後述)これからますます成長が期待される起業家の方です。

小日向さんの経歴を示した画像です

(出所:小日向さんからいただいた資料より抜粋)

2)【東京かあさん】=「第2のおかあさん」とはどういうことか?

株式会社ぴんぴんころりのメーンサービス【東京かあさん】は、その名の通り、

「東京での『第2のおかあさん』を持つ」

がコンセプト。特に実家から離れて暮らしている人は、すぐにピンとくるネーミングではないでしょうか。よく、大家さんとか近所の定食屋のおかみさんとかが一人暮らしの学生さんに、「私のことを東京のおかあさんと思って、困ったことはなんでも相談してね!」と言うアレです。言ってもらったほうはとても心強いですし、何より嬉しくてグッときます。

【東京かあさん】は、家事代行やベビーシッターの枠を超えて、家事や育児のサポートをお願いしたり相談したりできるサブスク型のサービスです(月額平均は3万円くらい)。「おかあさんにちょっとヘルプをお願いする」「おかあさんが、ちょっとしたおせっかいでやってくれる」イメージのもので、小日向さんの言葉を借りれば【第2のおかあさんを持つという体験を提供している】サービス。難しいことはいっさい考える必要がありません。例えば、利用者は、LINEで「第2のおかあさん」に「いま仕事終わりました。保育園のお迎えと夕ご飯の準備をお願いします🙏」などを送ると、第2のおかあさんがやって来てくれて(事前のお顔合わせなどがあります)、家事や育児をサポートしてくれます。実に素晴らしいサービスです!

まさに「おかあさんヘルプ!」とお願いできるサービス。スマホ一つでやり取りできるこの簡単さ手軽さも、利用者と働き手(おかあさん)の両方にやさしいところ。「1分でわかる東京かあさん」動画はこちらです(出所:東京かあさんウェブサイトより)。

サブスクリプションの料金を示した画像です

(出所:小日向さんからいただいた資料より抜粋)

3)スタバ理論(仮)を家事代行にも当てはめてみる

とはいえ、小日向さんは、一般的な家事代行やベビーシッターを否定するわけではまったくありません。「大事なのはすみ分け、利用する人がサービス(家事代行など)に『何を期待するか』だと思うんです」と小日向さん。例として挙げてくださったのは「人はコーヒーを飲みに行くとき、どこを選ぶか」という話でした。とても分かりやすかったので、小日向さん流「家事代行に当てはめるスタバ理論(仮)」として、こちらにご紹介します。

「スタバに行きたい人はスタバに行くし、ドトールに行きたい人はドトールに行く。スタバを選ぶ人は店員さんとの交流などホスピタリティを期待しているのかもしれないですし、ドトールに行きたい人はドトールのコーヒーの香りや味に期待しているのかもしれません。そして、昭和の喫茶店の雰囲気が好きな人は、それを期待して昭和の喫茶店に行く。家事代行などのサービスも同じだと思います」

「例えば、とにかく家事をアウトソーシングしたいという方は、一般的な家事代行のサービスを活用するのがいいかもしれません。それだけではなく、『ほっこりしたぬくもり』を感じたい人、おかあさん世代の方々と交流したい人、知恵袋的に家事や子育ての色々を教えてほしい人とかには、【東京かあさん】で『第2のおかあさんを持つ』が合っているのではないかと思います」

『第2のおかあさんを持つ』のイメージ画像です

東京かあさんのサービス内容を示した画像です

(出所:小日向さんからいただいた資料、「東京かあさんウェブサイト」より抜粋)

2 創業のきっかけは、小日向さんご自身のおばあさん

高齢者支援をメーン事業と心に決めてブレない小日向さん。「高齢の方がいつまでも元気で働ける場、そういう社会をつくりたい」と語ります。きっかけとなったのは小日向さんご自身のおばあさんのことでした。

「もともと私はおばあちゃん子で、愛情をたっぷり注いでもらっています。祖母は30〜40代のころから何かしらのお仕事をしていて、そこからずっと働き者でした。70代になっても色々とお仕事をしていましたが80歳くらいになるとついにお仕事がなくなってしまいました。その後は家でずっとテレビを見ているという感じで、元気がなくなってしまったのです。心配していた矢先に怪我で入院してしまいました。そのころに、ハッと、『やはりお仕事をしていたことが、祖母の元気の源だったのではないか』と直感的に思ったのです」

こう語る小日向さん。おばあさんのことをきっかけに、高齢の方でもずっと元気でいられる何かをできないかと思っていた小日向さんは、あるベンチャー系イベントで、高齢者の知見を活かした就業支援の事例に出逢います。そして自分でも「高齢者の就業支援」をしたいと考えるようになり、シルバー人材センターのことを調べるなどしてその思いがどんどん膨らみ、ついには株式会社ぴんぴんころりの創業に至りました。やはり、ご自身が実感したおばあさんへの思いがあるので事業へのコミットの仕方が半端なく強い小日向さん。何より、「高齢になった方でもずっと元気でいられる何かをしたい」という考えを、考えるだけで終わらせず具体的に形にして会社を立ち上げ、そして今は会社で仲間も雇用している。この底力、根性、行動力、実現力。並々ならぬ内に秘めたパワーを感じます。

小日向さんが【東京かあさん】のサービスを具現化した裏側には、小日向さんご自身が「第2のおかあさん」に「おせっかい」をしてもらっているという話もあります。つまり、創業者自らが自分のサービスのユーザーでありファンでもある、実に理想的な形です。つい最近も掃除や洗濯をしてもらい、その後一緒にご飯を食べて映画を見に行ったそうです。本当に文字通り、「第2のおかあさん」ですね! なにしろ、小日向さんが引っ越しされるときも、「頼んでいないのに」第2のおかあさんが手伝いに来てくれて、荷解きしてくれたというのです。おかげで仮眠を取れたと感謝している小日向さん。この信頼関係、なかなかできることではないですね。【東京かあさん】の質の高さがうかがえるエピソードです。

3 こだわりの「言葉」と、第2のおかあさんやサービスを使ってみた方からの“声”

小日向さんご自身がユーザーでもある【東京かあさん】には、言葉の定義一つひとつにも、小日向さんのこだわり、意志が感じられます。例えば、働き手(ワーカー)のことは「おかあさん」。一方、利用者(ユーザー)のことは「お子さん」。「おかあさん」や「お子さん」という呼び方については、「【東京かあさん】のファミリーの一員として親しみを込めて、そのように呼ばせていただいている」と小日向さん。その他も併せてまとめると、下記などがあります。小日向さんの実現したい世界観がよく分かります。

  • おかあさん:働き手(ワーカー)
  • お子さん:利用者(ユーザー)
  • ◯◯ママ:おかあさんの呼び方
  • お見合い:事前のお顔合わせ
  • 親コンシェルジェ:スタッフのこと
  • 親子契約:事前の30分のお見合いの後、“親子”がお互いに継続希望の場合の契約
  • NGワードもいくつか(下記)
    ×お世話になっております(家族では普通言わない)
    ×引き続きよろしくお願いいたします(家族では普通言わない)
    ×家事代行(家族のおせっかいなサポートなので、家事代行ではない)

こうした世界観で実現しているので、「おかあさん」や「お子さん」からの働いてみての感想、サービスを利用してみての感想も、一般的な家事代行の感想とかなり違っています。下記にいくつかご紹介します。先に、「お子さん(ユーザー)の声」を、その後に「おかあさん(ワーカー)の声」を掲載します。グッとくる“声”ばかり、特に「おかあさん」のほうは、「高齢になっても活躍できる場」が実現できていることが本当によく分かります。必見です!(出所:小日向さんからご提供いただいた皆さまの声より)

【お子さん(ユーザー)からの声】

  • 保育園、学童、習い事の迎えのみならず、お買い物や、お料理、掃除や片付けなど、その日にお願いしたい事についてお伝えすると、その時々の状況に合わせて臨機応変にお手伝いいただき、在宅勤務の大きな支えになりました。
  • 東京かあさんを知りコンセプトがいいなと思い、詳細なリクエストを出しておかあさんを探してもらいました。マッチングに時間はかかりましたが、素敵なおかあさんを紹介してもらえました。
  • 水回りの掃除を徹底的にしてもらうので、自分はさっと掃除するだけで汚れず気持ちよく生活できます。掃除が苦手だったので、ストレスも減りました。
  • 家の整理の仕方、料理の工夫、衣類の畳み方から、家具の配置など、生活についての諸々を教えてもらえて、大変助かっています。実家もあまり片付いている方ではなく、どのように整理して生活すべきかを習う場もなかなかないので、一緒に考えてもらえたり、実際に片付けてもらえるというのは本当に助かります。
  • 登録されているおかあさんが沢山いらっしゃるお陰で、急に継続出来なくなった場合でも穴をあけずに次のおかあさんに来て頂けたのがありがたかったです。東京かあさんが用意して下さる交換ノートなど、お互いの距離を縮めたり、心を通わせやすくする工夫が随所に散りばめられている所が、温かくて良いなと思います。
  • 2人子供がいるので、今は「おかあさん」不在の生活は想像できません。洗濯物きれいに畳んでいただいたり、お料理の下ごしらえをしていただいたり、いつも細かことをしていただきありがたいと思っています。コロナで大変な時期ですが、これかもお願いしたいと思っております。

【おかあさん(ワーカー)からの声】

  • 何気ないことですが、幼稚園への送迎途中、園内の様子を楽しげに話してくれることに、日々お子さんの成長を感じながら楽しくサポートしております。
  • ○○ちゃん、○○くん(利用者さまのお子さま)が走りながら、外までお迎えに来てくれてすごく嬉しかったです。帰りも、外までバイバイをしてくれて家族になれた気持ちになります。
  • ○○ちゃん(利用者さまのお子さま)の小学校がリモート授業になったため、1人でお家にお留守番でしたが、私が訪問することで少し安心して貰えたようです。○○ちゃん(利用者さまのお子さま)も以前よりお話ししてくれるようになりました!
  • 風呂、洗面所、トイレ、キッチンと水周りや床の掃除中に洗面所の鏡が気になると言うので、ガラス用洗剤を使って掃除をしました。残った時間で、衣類を畳み直して収納して、鞄の整理をした時に、一緒に断捨離をして、スッキリしたと喜ばれました。
  • キッチンを清掃中に、○○さん(利用者さま)は「外出の予定があるため昼食をとりますね!」とお座りになり、お父様のお話しなどをして下さり、楽しく作業をしました。お掃除が終わり少し時間があったので、おせっかいですまし汁を作り大変喜んで頂きました。
  • 今日は、○○ちゃん(利用者さまのお子さま)の受験の合否をお聞きする事と思い、どきどきしながらお伺いしましたが、玄関で待っていらした○○ちゃん(利用者さまのお子さま)の笑顔を見て合格が分かりました。万が一を考えて、お好きなブルーの小さなブーケはバッグに隠してお伺いしたのですが、心配無用でした。
    春から着られる制服の写真を見せていただいたり、発表の時のご様子をお聞きしたりして、ばあば気分を満喫させて頂きました。
  • 子供さんがお料理を食べてくれない悩みを抱えての訪問でしたが、運営の皆様から応援、励まし、アドバイスをいただき感謝です。そんな気持ちが伝わったのかどうかはわかりませんが、○○くん(利用者さまのお子さま)に「○○ママ大好き〜!」とハグされちゃいました。嬉しかったです。こんな感じなので、気を張りすぎず、少しだけ頑張ってみますね。

読んでいると、何かぬくもり、ほっこり。おせっかいが大事で、それがほっこりにつながっている。感動します。

4 【東京かあさん】、そして小日向さんの今後について

ぴんぴんころり、そして【東京かあさん】のサービスは現在、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県といった関東地方で提供していますが、今後は全国展開もしていきたいと小日向さん。登録している「おかあさん」も、もうすぐ600名になるそうで、順調に伸びてきているようです。全国どの地域でも、「近所に第2のおかあさんを持つ」が実現できるようになれば、さらにニーズも増えるかもしれません。例えば、新しい土地に引っ越したばかりで近所に知り合いもいなくて子育てもあって、心細い……という人向けなど。そう考えると、「おかあさん」をどうやって集めるかが、ますます重要になってきます。例えば、生命保険会社や銀行、信用金庫、地元の大手企業の卒業生などが「おかあさん候補」になるかもしれません。

実際に、小日向さんの思い、やっておられることに共感して「一緒に何かできれば」と声をかけてくれる金融機関や大手企業などもあるようです。小日向さんご自身も「高齢者の健康ケア&保険料を抑えるという面で保険会社さんと連携などできるかも」と目を輝かせています。これからが楽しみです。

「今後、家事代行市場は6000億円規模、保育サービス市場は3兆3500億円規模と推計されます。それに対して、家事・育児サービスの市場では働き手不足が問題となっています。そうした中、ぴんぴんころり、東京かあさんはこれから増えていく働きたいシニアのために作った会社、サービスですので、こうした働き手不足を解決していけると思っています」

と将来に向けて自信をのぞかせる小日向さん。実際に高齢の方のうち約80%が「70歳以上まで働きたい」と回答しているそうで、【東京かあさん】はその場づくりとして大きな可能性があると感じます。小日向さんの語る、次の言葉が、何か今後の日本の明るい未来を予感させてくれます。

「『東京かあさんが生きがいだ』と言ってくださるおかあさんたちがどんどん増えています。『こんな私でもお役に立っていると思うと幸せです。東京かあさんに出会えて幸せです』『お子さんの日々の成長に関われてとても幸せです』『だんだん娘・孫のような存在になってしまいました』『今日は母の日ですね。我が家の東京かあさんになってくださって、ありがとうというメッセージをもらった』など、おかあさん方には、日々やりがいを持ってやっていただけているかなと思っています」

最後に、小日向さんの実現されたいことを改めてお聞きしてみたところ、次のように語ってくださいました。

「東京かあさんは、まだまだやりたいことの一つにすぎません。(高齢の方が)働いて収入を得て、その先はその収入を使って新しいことを学んだりとか、あと仲間と趣味を楽しんだり、高齢の方がずっと元気でいられることはどんどん手がけていけたらいいなと思っています」

「高齢の方がずっと元気でいられることはどんどん手がける」。2019年に、小日向さんご自身のお母さんも参加してクラウドファンディングで開催された平均年齢70歳の「めいど喫茶 ぴんころ」も、その一環なのだと思い至ります。改めて小日向さんのコミット力、アイデア、そして具現化する実行力、何より暖かいお人柄に感嘆しきりです。応援しています! ありがとうございます。

東京かあさんのサービス内容を示した画像です

(出所:以前開催のイベント告知ページより抜粋)

  • 東京かあさんウェブサイトはこちら
  • 東京かあさん発オウンドメディア「ミソシル」はこちら

以上(2022年4作成)

提供
執筆:杉浦佳浩 (すぎうら・よしひろ) 代表世話人株式会社代表
三洋証券株式会社入社(昭和62年)。鹿児島支店にて勤務。地元中小企業、個人富裕層の開拓を実施。 日経平均最高値の2カ月前に退職。次に日本一給与が高いと噂の某電機メーカーに転職。埼玉県浦和(当時)にて、大手自動車メーカー、菓子メーカー、 部品メーカー等の主力工場を担当。 退職時は、職場全員から胴上げ。そして、某保険会社に二十数年勤務後、平成26年末に退社。在社中は、営業職、マネジメント職を経験して、リテール営業推進、若手人財育成を中心に担当していた。 社外の活動も活発に行っていた。平成27年1月1日、代表世話人株式会社を設立。
同社代表取締役に就任。世話人業をスタート。年間1000人以上の経営者と出会い、縁をつなげている。

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